加えて懸念されるのは、ワクチンの打ち手不足だ。各自治体は集団接種会場での医師や看護師の確保のため、人材派遣会社を通じ「日給10万円」でアルバイト医師を募集するなど苦慮している。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が言う。
「バイトの医師が毎日入れ替わるような体制だと、自分の病院で緊急手術やワクチン接種があればそちらを優先せざるを得ないから、穴を開けることになる。自治体がしっかり計画を立て、現場を仕切り、バイトを差配するリーダー格の医師を置かないと、接種は進まず、だらだら延びてしまうでしょう」
ワクチン接種のスピードが鈍いことは、新たに深刻なリスクを招きかねない。すなわち、「日本型変異株」の出現である。上医師はこう語る。
「抗生物質や抗がん剤を使った治療は、一気にやらないと耐性を招くことが知られています。ワクチンの場合も、日本のように緩慢に接種を進めているとウイルスが変異をくり返す中でワクチンが効くものは消えていきますが、耐性を持ったものが生き残り、増殖していくことが考えられます」
英科学誌ネイチャーは、「迅速かつ徹底したワクチン接種が、変異株が足場を築くのを防ぐ」と指摘している。その通り、米国と英国は今年に入ってワクチン接種を一気に加速させ、感染者を激減させた。5月15日時点で、ワクチンを少なくとも1回以上接種した人の人口に占める割合は、米国が約46%、英国が約53%。両国では経済再開の動きが活発化し、屋内施設や飲食店の集客制限が緩和されるなど街が活気を取り戻しつつある。上医師が説明する。
■接種率が4割で集団免疫効果?
「米英両国とも接種率が40%くらいになったころから感染者は増えておらず、集団免疫の効果が出始めた可能性があります。変異株が入ってワクチンの効きを低下させたとしても、ファイザーやモデルナのワクチンは変異株に対しても有効性が50%はあるといわれており、蔓延にはつながらないと考えられます」
一方、日本の接種率は一向に上昇しないまま、時間だけが経過している。
「いまは昨年同時期に比べても、はるかに感染者数が多い。その分、ウイルスの変異が起きる可能性も高まります。このまま本格的な冬の流行期に突入していく中で、『日本型変異株』が現れる恐れが十分にあり得るのです」(上医師)
日本発のワクチン耐性株が出現してしまえば、早期にワクチン接種を終えた各国が通常の経済活動に復帰していく中、日本だけがその流れから取り残されることすら考えられる。悲劇的結末を避けるためには、ワクチン接種のスピードアップに全力を注ぐ必要がある。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2021年5月28日号