中村:僕は、占いは基本的に信じていないのですが、言われたことは気になるんです。実は昔、占い……というよりも色々と見える人に、画家か詩人か小説家になる、と言われて結果的に当たって。その頃はミュージシャンを目指していたから、がっかりしたんですけど。
鏡:へえ……。でもまあ、「小説家やアーティストになる」というのは、実は、占いで言いがちではあるんですが。みんな喜ぶから(笑)。
中村:なんてこった(笑)! それを信じて、作家になっちゃったのかな。
鏡:予言の自己成就的な効果もあるかもしれません。
中村:ある占い師の方が、「なんでコロナの状況を当てられなかったのか」って言われているのをテレビで見たんですが、「大きな変化の流れはあったんだよ」って言われていました。
鏡:ああ(笑)。でも専門のWHOだってパンデミックは予言できなかったんだから、占いで具体的なことは予言できるわけがない。ただね、よく誤解されていますが、占いの主な機能は「予言」ではないと僕は思います。人生やこの世界で起こっている不条理な事象を別の体系でリフレームして解釈しなおすことがむしろ中心。だから、あとで振り返ると「あーなるほど」ということは多々あります。占いってそもそもが不合理なもので、無理に合理的に考えると迷信になっちゃうんですが、人が行き詰まるときって合理的に考えても答えが出ないとき、そういうときには占いという「非」合理的な観点が力を発揮する場合がある。
中村:今回、この作品を書いてみて、カードをめくる行為は、生きることに似ていると思ったんです。カードは、めくるまでそれが何かはわからない。誰かと知り合って、それがどんな人かは、親しくならないとわからない。明日も何が起きるかわからない。占いでそのカードが何か、明日起こることが何かわかればいいですけど、わからないからそれをめくるしかない。でも人は、先を知りたいから何とか占いをしようとする……。あと、今回の『カード師』では、登場する主なタロットカードを本の口絵で並べたのですが、神秘的な絵柄の繋がりから小説の構図が見えるようでもあって。とても不思議で、自分では意図していなかった構図まで見えてきて。