経済成長の切り札として、安倍政権が注目する「女性の活用」。しかし、安倍晋三首相が抱く「女性像」は、実際とはかなり隔たりがあるようだ。
都内に住むフリーの映像作家Eさん(45)は、安倍政権が次々出す女性政策に疎外感を感じた。1年半前から不妊治療を受けているが、厚生労働省の特定治療費一部助成事業の対象にはならない。法律上の婚姻関係を結んでいないからだ。顕微授精1回にかかる費用約30万円に加え、体調を整えるために飲む漢方薬やサプリもすべて自腹だ。
「国民の産み育てたいという願いをかなえたいと言いながら、事実婚や独身、同性愛者の子どもを持ちたい思いは排除されている。少子化を食い止めたいなら、多様な家族のあり方を認めなければ未来はないと思う」
社会学者の水無田気流(みなしたきりう)さんは、安倍政権が考える女性像は、夫が高所得で専業主婦の「セレブ妻」と「高所得者カップルのワーキングウーマン」だという。
バブル崩壊後、低成長時代に入り、若年男性の賃金水準が低下、1997年以降は共働き家庭が多数派になった。高所得同士、低所得同士のカップルが生まれ、世帯ごとの格差や女性の間の格差も大きくなっている。
「非正規雇用同士でもシングルマザーでも子どもを産み育てられなければ、女性の生きづらさや産みづらさは変わらない」
ニッセイ基礎研究所の久我尚子さんはこう話す。
「20代にもっとも大切なものを聞くと『家族』と答える人が多い。その割合は年々増え、9割の男女に結婚する意思がある。なのに未婚化が進行しているのは、不安定な雇用や恋愛への消極化がある。安倍政権の政策にはその視点が抜けていると思います」
一見口当たりのいい政策に騙されないほど、女性たちは過酷な現実に直面しているのだ。
※AERA 2013年6月24日号