ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)、発汗、疲れやすい、めまい、動悸、眠れない、イライラ、憂うつ……。更年期にこうしたさまざまな身体的、精神的症状が表れ、日常生活に支障をきたす状態を更年期障害という。更年期障害の治療の中心は、ホルモン補充療法だが、日本での普及率は低い。その原因の一つが、乳がんの発症率を高めるといったホルモン補充療法を受けることでのリスクだ。近年はそのデメリットが、解消されつつある。
【データ】女性の更年期障害、かかりやすい年代は?主な症状は?
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更年期障害の主な原因は、女性ホルモンの一つであるエストロゲンがゆらぎながら低下していくことだ。女性は更年期を迎える40代半ばから卵巣機能が低下していき、卵巣から分泌されるエストロゲンの分泌量も急激に減少していく。
治療の中心となるのは、エストロゲンを補充する「ホルモン補充療法(HRT)」だ。愛知医科大学病院産婦人科教授の若槻明彦医師はこう話す。
「あれもこれもと矢継ぎ早に多様な症状を訴える患者さんにホルモン補充療法をおこなうと、次の診察では人が変わったように落ち着いていることがあります。ホルモン補充療法は、それくらい効果があります。特に効果が出やすいのが、ほてり、のぼせ、発汗などの『血管運動神経症状』です」
■貼り薬の使用でリスクを回避
更年期世代の女性のうち、約8割が更年期症状を経験すると言われているが、日本でのホルモン補充療法の普及率は、欧米に比べて著しく低い。
その理由の一つが、副作用に対する不安だろう。不安の根拠となるのが、2002年に発表された「WHI(Women’s Health Initiative)」という米国の大規模試験の結果で、ホルモン補充療法によって乳がんや心筋梗塞などの心血管系疾患、静脈血栓塞栓症のリスクが上昇したという内容だった。しかしその後のさまざまな研究によって、こうした難点をカバーできることがわかってきた。
WHI研究によると、ホルモン補充療法を受けなかったグループで、乳がんを発症したのが1万人のうち30人だったのに対し、5年以上受けたグループは、38人で1・26倍の増加だった。これはアルコール摂取、肥満、喫煙といった生活習慣によるリスクと同等もしくはそれ以下となる。また、5年未満であればリスクは上昇していない。