さらに、その後の研究で明らかになったのは、使用するホルモン剤の種類によってリスクが異なることだ。がんなどで子宮を全摘して、子宮がない女性はエストロゲン製剤を単独で使用するが、子宮がある女性の場合、エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤(プロゲスチン製剤)を併用する。エストロゲン製剤の単独使用では、子宮内膜がん(子宮体がん)のリスクが上がることから、それを予防するためだ。

「実は乳がんのリスクを上げるのは黄体ホルモン製剤であり、エストロゲン製剤単独であれば5年以上使用しても乳がんのリスクは上がりません。さらに黄体ホルモン製剤には、合成型と天然型があり、天然型であれば乳がんのリスクが増えないことがわかってきています」(若槻医師)

 天然型の黄体ホルモン製剤は現在日本では使用できない。近い将来承認される見込みだが、現状では天然型と類似した作用がある「ジドロゲステロン」が代用される。

 薬を体内にとり込む経路によってリスクが異なることもわかってきた。ホルモン補充療法には、経口剤(錠剤)と経皮吸収型製剤(貼付剤、塗布剤)がある。

「貼付剤は心血管系疾患や静脈血栓塞栓症のリスクを上昇させないことが明らかになっています。このため、現在は貼付剤を第一に選択することが増えています」(同)

 貼付剤は主に下腹部に貼り、2日に1回もしくは週に2回新しいものと交換する。皮膚がかぶれたり、腫れたりする人は、経口剤を使用する。

■骨折や動脈硬化を予防する副効用も

 そのほかホルモン補充療法の副作用として出血や乳房痛、乳房緊満感などがある。ホルモン補充療法の投与方法には、持続法と周期法の2種類があり、持続法の場合は、ホルモン剤を連続して使用し、周期法の場合は間に5~7日の休薬期間をはさむ。持続法は月経がこないが、不定期な不正出血が起こりやすい。一方、周期法は毎月、月経がくる。野崎ウイメンズクリニック院長の野崎雅裕医師はこう話す。

「閉経している人は持続法を選ぶ傾向があります。乳房痛などが気になれば量を調節するなど、ホルモン補充療法は、薬の量や種類、期間、経路など個人に合わせたテーラーメイド医療といえます」

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