この部分は大きく報じられることはなかったが、日本で独自の形で発展している第三者組織 BPOが今後、テレビ局が制作する映像コンテンツ全体について、たとえ放送されずに通信だけで配信される場合でも、倫理を検証する余地があるという説明だった。
実現はすぐには難しいかもしれない。だが、放送と通信が融合している実態を考えると、BPOが放送と通信の映像コンテンツの倫理を守る役目を果たしていけば、いい先例になる。
■放送に準じたチェックを原則に
放送と通信を比較してみれば、倫理や原則がそれなりに定まっている放送に比べ、通信ならばいくら逸脱してもいいのだと考えている(のではないか)、と思わざるを得ない出来事があった。
2015年、日本テレビによる「セクシーラグビールール」事件が起きた。「ラグビーワールドカップ」に関連してルールを紹介するという口実でスポーツブラを着用した若い女性たちの谷間が露わな胸元やボールを蹴った時のショートパンツ姿の股間などをカメラでズームインするなど強調する動画を配信したのだ。
日本体育学会や日本ジェンダーとスポーツ学会がこの動画について日本民間放送連盟の「放送基準」に抵触するのでは? と抗議した際に、日本テレビは「「『放送基準』などが適用されるとは考えておりません」と当初は居直ったような回答をしていた。テレビ局が制作した動画でも「放送」であれば基準を遵守し、「通信」ならば守る必要はないという本音が透けてみえているようだった。「通信」だけの配信ではルールや倫理の適用外だというのが当時の認識だったといえる。日本テレビはその後の学会からの再質問に対して当初の回答を撤回。「ネット動画についても放送に準じたチェックを行う」という姿勢に転じた。
やはり放送局が制作する動画については、「放送に準じたチェック」を行うのを原則にすべきだろう。第三者組織として積み重ねてきた「判例」にそって通信でもそれを準用する形にすれば、無秩序な権利侵害や誹謗中傷を誘発するような映像コンテンツづくりは避けられるはずだ。
花さんの死から1年。ネット時代の犠牲になった彼女の死を無駄にはせず、それぞれの立場でインターネット時代の課題を解消する動きにつながることを切に願っている。
◯水島宏明(みずしま・ひろあき)/1957年、北海道生まれ。上智大学文学部新聞学科教授。札幌テレビ、日本テレビで在英・在独特派員、地域密着の情報ワイド番組のデスク、防衛庁・外務省記者、ドキュメンタリー番組を制作。「ネットカフェ難民」という造語でキャンペーン報道。2011年の東日本大震災の後で原発をめぐるドキュメンタリーを制作。2012年から法政大学社会学部教授を経て上智大学文学部新聞学科教授。放送批評懇談会理事(2016~20放送批評誌「GALAC」編集長)、2017~21日本マスコミ学会理事
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