
夏目漱石の孫でエッセイストの半藤末利子さんと政治学者の姜尚中さんが、AERA 2021年6月14日号で対談。半藤さんは、1月12日に亡くなった、夫でジャーナリストの一利さんとの思い出を語ったほか、現在の東京への思いも明かした。
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姜:一利先生も晩年は特に、日本の現状と日本のこれからについて非常に憂えておられました。
半藤:夫が幸せだと私が思いますのは、これから日本が良くなるはずがないと思っているからというのもあります。私が死ぬときも、いまよりずっと良くなっているとはとても想像できません。
姜:これからの日本が悪くなってしまうという感覚は、私自身も持っています。
半藤:渋谷などを見ていますと、めちゃくちゃに壊されてしまいました。別の沿線に乗ろうと思うときに大変な苦労が伴います。いまの渋谷はターミナルステーションの機能を果たしていないんじゃないか。これまで便利に楽しく暮らしていたのに、ある日突然不便になってしまう。私は、ごく身近のところしかわからないですが、こんなことの繰り返しでは世の中が良くなるわけないと思います。
姜:末利子さんがおっしゃったことは、漱石が『三四郎』の中で「東京はどこまで行っても東京だ。壊しては作り、作っては壊す」と書かれていたことに通じると思います。間もなく開催予定のオリンピックに代表されるように、東京の街全体がガラスと鉄鋼でピカピカではあるけれど、よそよそしい街に変わってしまっています。まさに、これは今の日本を象徴している気がします。
半藤:もっとはやくからどうしてみなさん、そういうことにお気づきになられないんでしょうね。破壊され、非常に不便になってから文句を言っても遅いんです。
姜:一利先生はものを書くことによって、同時代の人に警鐘を鳴らそうとされていたと思います。ところで一利先生は、末利子さんに、なにか直接的なメッセージとして、そういったことをお話しになることがありましたか。