次に身体の鍛錬を怠らなかったことです。百戦錬磨の武将ですから、当然かもしれませんが、身体能力は相当、高かったようです。剣術はもちろん、水泳の達人だったといいます。また、鷹(たか)狩りを大いに愛して、駿府に移ってからも、この楽しみを欠かしませんでした。野山を走り回る鷹狩りは、相当な運動量なのです。家康自身が鷹狩りの効用を「これぞ一番の摂生。中途半端に薬を用いるより優れている」と語っていたといいます。

 3番目は医薬に対する豊富な知識を持っていたことです。相当な勉強家だったようで『和剤局方』や『本草綱目』を愛読していたといいます。前者は宗代に書かれた医薬品の基準集です。品質、純度、強度が定めてあります。後者は明の李時珍が編んだ漢方薬の解説集です。1890種余りの薬剤が出てきます。こういう専門書を読んでいたというのですから、玄人はだしだったのでしょう。

 この三つがそろえば、長寿を保てるのも納得できます。これは今の世の中でも十分通用する養生法だと思います。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年6月18日号

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