名詞でさえこうですから、抽象的な形容詞や形容動詞なんかはもっと大変です。blueと聞いて英語話者が思い浮かべる色と日本人が「青い」と聞いて思い浮かべる色は、きっと違うでしょう。prettyは「かわいい」と訳せない場合の方が多いですし、interestingも定番の「興味深い」だけではニュアンスを表しきれないことが多い。文脈によっては、けなし言葉にもなります。
ここまで翻訳が難しいのは、やはり、ことばが文化の投影だからでしょう。ことばは文化を表現するツールであり、文化を理解していないと完全に使いこなすのは難しい。わがやはアメリカに約5年住み、最近日本に引っ越してきたのですが、その大きな理由のひとつは子どもたちに日米の文化を両方身につけてほしいと考えたからです。
いまのところ、幼いわが子たちはわずかずつではありますが日米の文化の違いに気づきつつあるようです。たとえば、日本語の「青い」には英語でいうgreenも含まれるということが、実感としてわかってきたようです。最初は信号が赤から青に変わるのを見て、「信号が緑になったよ!」と、英語を和訳する感覚で言っていたのですが、だんだん「青になった」と言うようになりました。
ハロウィーンの時期が来たら、きっと「pumpkin≠カボチャ」の事実に気がつくでしょう。深緑色をしたホクホク甘い「カボチャ」は、いままでアメリカでジャックオランタンを作っていたオレンジ色のpumpkinではありません。そのとき、子どもはカボチャを英語でなんと呼ぶのか。親としていまからとても楽しみです。
〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi
※AERAオンライン限定記事