植木:わかります。例えば、夏の会議室ってすごく寒いんですよね。男性はスーツにネクタイをつけているので冷房の温度設定が低くなっています。でも、男性が9人で女性が1人だけですと、寒さを口にすることはできません。「当たり前のこと」として、我慢している存在に気づく人もいません。些細なことに思われるかもしれませんが、マイノリティーの抱える困難や我慢というのはこうした小さな日常の積み重ねの中にあるのだと思います。マジョリティーの側に悪気がないケースも多く、違和感を伝えられる状況を作ることも大事だと思います。

林:「声を届けられるポジション」にいる者としての責任かなと思います。声を届けたくても、できない女性たちがたくさんいますから。また、マイノリティーは女性だけに限りません。

植木:私が副学長のときに、社会人入試で入った女性から、成績証明書を旧姓で出してほしいという要望がありました。本学ではトランスジェンダーの学生は戸籍名でない名前で成績証明書を出せるので、問題ないと思いましたが、一部で反対の声があがりました。結婚後の姓は自由に選べるのだから、トランスジェンダーとは事情が違い、旧姓使用の要望は「わがままだ」と言うのです。それを聞いて、女性の抱えている困難さがきちんと理解されていないと思いました。姓が選べると言っても、96%が夫の姓になっているのが現状です。必ずしも希望通りの選択ができているとは限らないことを説明し、理解を得ました。

■まずは母数を増やす

──女性学長の比率は大学全体で約1割。国立大学に至ってはわずか3.5%です。植木学長のおっしゃる「女性が学長になることが話題にならない時期がくる」ために必要なことは何でしょうか。

林:まずは、女性の母数を増やすことが大事だと思います。

植木:私も「数」は必要だと思います。ただし、役職者の数値目標などを設け、「数」が先行すると女性を追い込みかねないとも危惧します。女性に偏りがちな育児や介護の負担を減らす方策や時間の負担を軽減する方策を考えながら進めることが大事だと思います。

林:東大は「2021年の入試合格者の女性比率が過去最高」と報じられましたが、まだ2割です。女子学生の比率をまずは引き上げていかなければいけません。そうしないことには女性教員の割合も増えていきません。

次のページ