──うつ病を克服してからは、生き生きとお暮らしになっています。秘訣はなんでしょうか。
好奇心を刺激してくれるものを身近におき、わくわくする感情を持ち続けることだと思います。老いを恐れず、残された日々を自然体でいること。良いことも悪いことも許容する。リセットもする。病気をしていてもいい人生を創り出す気持ちを失わない。
私は、たとえベッドの上で寝たきりになっても、夢だけは持とうと決めています。
──老け込まないための習慣があれば教えてください。
私は俳句が趣味です。毎日、日課のように俳句を詠んでいます。写真と俳句を融合した「写真俳句」を提唱していますが、楽しいですよ。推理小説や時代小説は犯人を捕まえ悪をほろぼす内容ですが、俳句や詩は、自分自身との対峙。また俳句はイメージを十七文字に凝縮させなければなりません。小説の世界と対極にあります。脳のリフレッシュにとても役立っています。
もう一つは散歩。同じ道を毎日通っていても、新しいパン屋ができたりします。その変化が脳への刺激になるように感じます。同じ時刻に歩いていても、春夏秋冬で表情は違ってくる。早いときには1週間で町は風貌を変えてしまう。日本の四季はいい、と改めて実感します。また散歩コースにかかりつけの医院を入れてあります。通りすがりに待合室をのぞいて、空いているようだったら診てもらう、混んでいたら素通りする。病院のためだけに出かけるとおっくうですが、散歩のついでなら時間の無駄にならない。一挙両得です。
──「老人性うつ」を公表したことで、読者からの反響はどうでしたか。
反応はすごいです。毎日のように手紙を頂きます。同世代だけでなく、親を介護されている息子さんや娘さんからも手紙をもらいます。高齢化社会、人生100年時代になり、一昔前より「人生の時間」が延びました。いままでは老後の時間は人生の「続編」でしたが、「新章」となりました。延びた時間で人生を総括できるし、また新しい人生を創ることもできる。人生に「決算期」ができたのです。ただし老後はアクシデントがあります。病気もするし、家庭の問題なども増える。もちろん、健康はなにより。病気をしないのもなにより。けれども、多くの老人はどこかに持病があり、大病になられる方もたくさんいます。それは運命といってはいけませんが、いくら気を付けていても避けられないものもあります。
私は皆さんに「病気になってもいいじゃないか」「悩んでもいいじゃないか」「他人に迷惑をかけてもいいじゃないか」と言いたい。それは老人だからです。老いるということはそういうことなのです。