AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『死にそうだけど生きてます』は、ヒオカさんの著書。「今までのこと」「その後のこと」の2部構成からなり、豊かな語彙力と表現力で読む者を引き込む。「知らない言葉に出会うと興奮する。その言葉でしか表せない温度感を大切に、言語化すること、表現することを、生涯を通して極めていきたい」とヒオカさん。心の師は羽生結弦、平手友梨奈、中川家。表現者として尊敬してやまない彼らの話をしだすと止まらない。ヒオカさんに、同書にかける思いを聞いた。
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「知らなかった」「こんな世界、想像したこともなかった」
ヒオカさん(27)のデビュー作『死にそうだけど生きてます』に寄せられた感想だ。
生まれ育ったのは、過疎地にある県営住宅。思うように働けない父が、やり場のない怒りに任せ母を殴る。そんな光景が日常にあるなかで育った。周囲は手を差し伸べるどころか「あそこで暮らす子と遊んではいけない」と、“最貧困層が集う場”として団地そのものが差別を受けた。お金がないため習い事はできず、洋服も買えない。「社会からネグレクトされているような日々だった」と、振り返る。
情感はあるのにさっぱりした筆致で綴られる四半世紀。体温を感じる文章に、どこか冷静な視線が作品全体を貫く。
「自分を可哀想な人間だとは捉えていない、ということが第一にあります。実家が裕福なゆえの苦しみを背負っている友人もいて、人間はみな表層とは違う一面を持っているのも知っている。自分は、社会の一つのサンプルでしかない、という感覚があります」
中学で不登校になりながらも独学で進学校に合格し、その後、国公立大学に進んだ。自身は図書館で出会った本に背中を押され努力を重ねることができたが、そもそも本に触れられない家庭だってある。
格安塾も生まれているが1千円の月謝を払えない家庭があるのも現実であり、「教育格差を生まないための公的サポートは必要不可欠」と言う。