「才能の芽が出る前、勉強を楽しいと思うか否かの前の段階での選別が確実にある。マイナスの穴を埋める作業は、個人の力ではどうにもならない。弱者が弱者のレールから逃れられないのは、決して個人の責任ではないと思う」
貧困問題に限らず、私たちは知らなかった現実に触れ、打ちのめされることがある。だが芽生えた感情を胸に刻み、現実的なアクションに繋げていくところに難しさがある。
「利他的であること、良心的であること、他者を想像する力を持つこと。常に自分をその方向へ矯正することは、人生をかけてしないといけないことだと思っている」とヒオカさんは言う。
「人に優しくなれなかったり、想像力が足りず相手を安易にラベリングし距離を置いたりする自分が嫌になることもあります。けれど、そんな自分を一度認め、そこからどうあろうとするか、反芻を続けていくことに意味があるのかな、と。すべての始まりは、『知ること』。知るきっかけは絶対に必要だと思う」
「貧困」を問題提起することで世に出た人間は、清貧でなければいけない。他者のそんな凝り固まった視線に抗うかのように、ファッションを通しての自己表現も忘れない。
「見えない弱者を可視化していくのは、人生のテーマではあるけれど、貧困層出身であることは私のアイデンティティーではない。『私』という人間を勝手に決めないで、という思いは強いかもしれません」
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年12月12日号