内村監督作『ボクたちの交換日記』『金メダル男』でプロデューサーを務めた松本整氏は、

「内村さんは、他人の人生への敬意を人並み外れて持っている人」

 と表現しながら、

「他人には他人の人生があるから、そこに土足で踏み込むようなことは絶対にしない」

 と重ねる。
 
 内村は、自分も踏み込まないし、相手にも踏み込ませないのだという。
 
 このチームメンバーを肯定的に受け入れるスタンスは取っていても、土足で中までは入らせず、心のどこかに“立ち入れない部分”を持つことは、以下の二つの理由から、リーダーの居住まいとして重要と考える。

 第一の理由。その内面の一定の距離感(=マインドディスタンス)こそが、チーム内における適切な「緊張感」を生むから。

 テレビ東京・伊藤隆行プロデューサーはこう語る。

「テレビの制作側として内村さんとズブズブの関係になることはないですね。だからその距離感も多分ずっと保たれたままなんだと思います。その『ちゃんとした距離』が、お互いの緊張感をつくっている。なれ合いにならないためにも、あんまりこちらもフィールドに入って行き過ぎないように、いつしかしているのかもしれないです」(伊藤氏)
 
 内村の現場は温かい雰囲気に包まれているが、誰も内村の心の奥、本当の「懐」までたどり着いていない。だからこそ常に適切な「緊張感」を維持できている。チーム員が各自のびのびと自由に仕事に取り組みながらも、そのよい緊張感がなれ合いのない“気を抜いてたるむことがないチーム”を作る要因となっているのではないだろうか。
 
 第二の理由。特定の誰かとの距離感を近づけることは、チーム内に人によるディスタンスの遠近を生じさせ、不平等やえこひいきを生みかねない。
 
 社会人として仕事をしていく中では、ある特定のメンバーと相互に密接な関係を築くこともあるだろう。それによる好循環も間違いなくある。だが、特別近い存在ができることは、裏を返せば、距離がある関係のチーム員がいるということになる。当人にその意識がまったくなく、事実、そんな行動を取っていなかったとしても、そうチーム員が誤解した時点でモチベーションは下がってしまう。
 

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「内村さんにお歳暮を贈ったことがない」