初めは冗談まじりで話していたつもりが、どんどん涙が出てきました。
手術をするなら、長女は訳もわからないまま、身体中に耐えがたい痛みを感じることになります。一方で、重心児は死に対する恐怖もなく、オペ自体が命取りになる可能性もあるため、大きな手術をするかどうかは保護者の気持ちも二つにわかれることが多い、とのこと。
私自身もまだどちらとも言えませんでしたが、側弯が専門のドクター宛に紹介状を出してもらうことにしました。
紹介されたドクターは側弯の名医であり、ひと通りの検査が終わると、力強い言葉で説明を始めました。
■オペは命を助けること
「これが今撮ったレントゲンですが、しっかり曲がっちゃってますね。この姿勢でも90°、自由に寝かせたら110°は曲がるかな。まず、すごく重要なのは、健常の女の子でも側弯がひどくなる子はいるんだけど、彼女たちのオペは美容目的が主流。でも、重心児のオペは命を助けることだと認識して下さい。この子を助けるには、もうオペしかないよ」
側弯は肺と小腸をつぶしながら進行するため、このまま放置すると、今後4年程度の間に日常的な呼吸苦や腸閉塞が起こる可能性が高い、と言われました。
ドクターは、そのまま手術を受けることを前提に話を続けました。
手術時間は8~12時間程かかること、重篤な感染症のリスクが10%以上あること、出血量が多いため、輸血によって身体中の血液がすべて入れ替わること、傷口は首の付け根から尾てい骨まで及ぶこと、硬膜外麻酔や麻薬を使っても痛みはかなり強く出ること、感染を防ぐためにどんなに痛がっても翌日から車椅子に乗せること、30本のボルトで背骨を固定するため、今後の体勢は仰向けのみになること、そしてこれらのリスクが命に直結する場合もあること……。
■1~2年で手術できなくなる
「一番やめてほしいのは、今はまだ無症状だからと先延ばしにして、肺の機能が落ちてから『やっぱり助けて』と言ってくるケース。140°を超えてからのオペは、手術をすること自体が危険で、デメリットしかありません。ゆうちゃんは恐らくあと1~2年で140°を超えて、手出しできなくなります」
説明はとてもわかりやすく、手術をするなら急ぐ必要があることも理解しましたが、どうしても即決はできませんでした。
長女は本当に苦痛のある治療を望むのだろうか……。
ずっとそばにいてほしいのは私の気持ちであり、この子が話せたら何と言うのだろう。
結論は3週間後に伝えることになり、この日の外来は終わりました。