ちなみに自分が「依存症」だとは思っていない。筆者のイメージでは、依存症とは一日中、酒が手放せず、仕事はおろか日常生活が完全崩壊している、いわゆる「アル中」の人で、自分とはまったく別世界だと思っている。
筆者の認識を聞き、倉持医師はこう切り出した。
「多くの方が、アルコール依存症についてそうした『ダメになってしまった人』というイメージを持っていますが、実はただの偏見です。アルコール依存症とは、お酒を毎日たくさん飲んでしまう人ではなく、上手に飲めない人のことを指すのです。『酒好き』と依存症の距離はみなさんが思うよりずっと近く、お酒を飲む人なら誰もが依存症になる可能性があります」
事実、都心に立地することもあってか、同クリニックのアルコール外来の患者は、いわゆる「エリート層」が多くを占める。傍から見れば会社を経営したり有名企業でバリバリと仕事をこなしたりしている優秀な男性や女性が、実は依存症を抱えている――それが実態なのだ。きまじめで責任感が強い人、弱音を吐けない人、気を遣いがちな人……意外だが、こうした人が依存症に陥りがちなのだという。
■依存症とは「否認の疾患」
倉持医師は、こう続けた。
「すでにアルコール依存症の人も、依存症の一歩手前の人たちもみんな、自分は違う、依存症のはずはないと口にします。アルコール依存症とは、自分をそう思いたくない心理が強く働く『否認の疾患』なのです。お酒を飲む人にはまず、こうした事実を知ってほしいと思います」
「否認」の心当たりは、正直言って筆者にもある。グサッと刺さる話である。
そもそも、なんでお酒を飲んでしまうのか。嫌いな人からすれば「飲まなければ良いだけでしょ」と突き放されそうだが、ついつい飲んでしまうし、量も増える。
倉持医師によると、アルコールは麻薬のヘロインや大麻などと同じく「依存性薬物」と呼ばれる。脳に直接作用して気分を良くしてくれる物質だ。だが、飲み続けていると脳のある回路に変化が起こり、自分ではやめられなくなってしまう。さらに耐性がついて快感が得にくくなるため、摂取する量が増えていってしまうのが特徴だという。
「アルコールは大麻をしのぐ強力な依存性薬物です。依存症の危険を早く見つけないと、どんどん深みにはまっていく、進行性の疾患だということです」(倉持医師)