卒業後、福祉関係の専門職に就いた彩子さんは、教団への違和感を抱きながらも親には何も話すことなく、「婚前恋愛・性交渉は禁止」という教えもかたくなに守っていた。

「20代の半ば頃、いろいろと相談相手になってくれる男性がいて、気になる存在になりました。でも私の中では『人を好きになってはいけない』という意識が刷り込まれていたので、しばらくは本当に悩みを聞いてもらう相談相手でした。でも交際を申し込まれたことでお付き合いをすることになったんです。ただそれは普通の恋愛ではなく、相談の延長のような関係でした。恋愛禁止という言葉が私の中でストッパーになっていたんです」

 普通の恋愛の形ではなかったにせよ、彩子さんに男性の影があることを母親はすぐさま察知した。母親は激高し、顔を見れば彩子さんに耳を覆いたくなるような罵声を浴びせたという。

「詰問されるのは決まって『彼とどこまでしたのか』というストレートな内容ばかり。毎日『人間のクズ』『色情魔』とののしられ、『2世が堕落するなんてなんてことを……』と嘆き悲しんでいました。娘の悩みよりも堕落したことを嘆く母の姿を見て、これまでの自分の人生は何だったのだろうと無力感と虚無感しかありませんでした」

 宗教が悪いのか、親が悪いのか、自分が悪いのか、一体どれが、何が悪いのかさえ分からなくなり、何をやってもむなしいだけの時間が流れていたという。

「母がああなってしまったのは自分のせいだという罪悪感もあり、その頃になると父も体調を崩し仕事ができなくなっていたので、実家を出て1人暮らしを始めるのも気が進みませんでした。母と私のやりとりを見せられていた弟は、家から逃げ出すように遠く離れた大学へ進学しました。母は早く私を教団のマッチングで結婚させようと、必死で相手探しをしていました。当時は教団を否定すれば、自分が生まれたことをも否定することになり、それはさらに辛くてむなしくなるので、私もいい相手がいたら結婚してしまおうか、と考えたこともありました」

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「その女を殺しに行く!」