■耳が聞こえにくいからこそ、大きな音には敏感になる

 しかし、高齢者側にも事情があるようだ。騒音と高齢者の耳の聞こえを研究する早稲田大学の倉片憲治教授は、高齢者の場合、身体的事情もあるのだと説明する。耳が聞こえづらくなった高齢者の場合、「補充現象(リクルートメント現象)」と呼ばれる症状が出ることも。小さな音は聞こえにくいのだが、大きな音には敏感で、正常な聞こえの人以上にうるさいと感じることがある。補充現象は高齢者の20~50%に見られる。

「高齢になると小さな音は聞こえにくくなりますが、大きな音は聞こえます。他の音が聞こえない中、突然子どもの声が聞こえるため、子どもの声をより感じやすくなることもあります」

 また、耳の役割からくる要因も考えられるという。もともと耳は異常をキャッチする役割を担う器官。一人暮らしや二人暮らしなど、少人数で暮らしている場合、警戒心が強くなり、音に敏感になることがある。

「特に高齢者の場合、自分の体の衰えもあるため、少しの音でも過剰に反応してしまうことがあります。病気の人も同じことで、自分の心身が弱まっていると、体の警戒心は高まるため、普段気にならない音も気になってしまうということはあり得ます」

 子どもの声よりも、子どもに関わる大人の声が耳障りと感じる人もいる。

 育休中、保育園のそばに住んでいた東京都品川区の30代女性会社員は、子どもの声には好感を持っている。ただ、女性保育士の大声が気になったという。隣の建物1階に突如開設された園庭のない小規模保育園。0歳と1歳のわが子を昼寝させるとき、隣の窓から聞こえる音に冷や冷やさせられた。

「育児中でしたし、子どもの声をうるさいと感じたことはありません。でも保育園の先生の大声は気になりました。当時年子の2人を寝かしつけるのは大変で、昼寝に対して神経質になっていたこともあります。やっと昼寝してくれたタイミングで先生の大声が窓から入ってきてわが子がぐずってしまって」

 幼稚園に隣接するマンションに住む福岡市の40代のフリーランスの女性も、不快に感じるのはむしろ大人の声だと話す。自宅は6階だが、窓を閉めていても子どもを叱る声が聞こえる。

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