当時、日本のエネルギー源の70%は石油であり、その8割を中東に依存していた。消費者の物不足への不安心理をあおる石油パニックは瞬く間に全国的に広がった。
そして経済成長率は74年に戦後初のマイナス成長を記録。7月の参院選で自民党は惨敗した。田中政治への拒否反応が決定的となり、閣僚たちは辞任した。
そして10月に立花氏の「田中角栄研究」は発表されたのである。当初、このリポートにメディアは反応しなかったのだが、日本外国特派員協会での質問攻めで、初めて大きく報じられ、11月26日に田中首相は椎名悦三郎副総裁らを呼んで辞任を正式に告げたのであった。田中首相を失脚させたことで、立花氏はジャーナリズム史に金字塔を打ち立てたのである。
実は「田中角栄研究」の発表当時、私はテレビディレクターだったが政治にあまり関心を持っていなかった。だが、発表をきっかけに私も田中角栄について調べるようになった。その後、ある媒体で田中角栄論をテーマに立花氏と対談する計画があったのだが、諸々の事情でかなわなかった。それが心残りでもある。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2021年7月9日号