指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第75回は、「『スポーツを止めない』努力」。
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6月20日に競泳の米国五輪代表選考会が終わり、東京五輪の主な出場選手が固まりました。米国は今回も手ごわいメンバーです。2019年世界選手権個人4冠のケーレブ・ドレセルは男子50メートル、100メートル自由形、100メートルバタフライを制して3種目の代表を決めました。ロンドン、リオの両五輪で計5個の金メダルを取った女子のケイティ・レデッキーも200メートルから1500メートルの自由形4種目の出場権を得ています。
リオ五輪女子100メートル自由形金メダルのシモーン・マニュエルは、100メートル自由形は9位で予選落ちしていましたが、そこから立て直して50メートル自由形で代表を勝ち取りました。世界大会で本命を食って優勝をさらう勝負強い選手です。今回も2種目で挽回(ばんかい)して、自己マネジメントと鉄の意志を感じさせました。
新型コロナウイルスの影響で代表選考が困難な国もあると聞きますが、欧州、豪州、米国といった強豪国の代表メンバーの記録と顔ぶれを見ると、世界的なコロナ禍の中でも感染拡大防止策を取りながら練習が継続できていたことがうかがえます。
昨年秋にハンガリーのブダペストで開かれた国際リーグに参加したときも実感したことですが、ナショナルトレーニングセンターが確立されている国では、パンデミックといわれる厳しい状況下でもトップ選手たちが練習できる環境を整えて、「スポーツを止めない」努力が続けられているように思います。
東京五輪が延期されて、スポーツをする意味を考え続けた1年。世界各国の選手、コーチが記録の向上を目指してトレーニングを続けていることが、大きな励みになりました。伝わってくる各国の大会の記録は単なる数字ですが、背景にある練習の積み重ねは手に取るようにわかります。