厳しい検査を行うので、ドナーを申し出た人でも実際に精子の提供者になれるのは、そのうちの3割程度と見込む。
「いま、1人のドナーから採取した精子を10人まで提供することが認められています。すると、年間500人に精子を提供するには最低50人のドナーが必要となる。そのためには、その3倍の150人の精子を検査し、保管しなければならない」
■精子バンクをまかなう仕組み
精子を提供する際は1回15万円で医療機関に提供する(さらに医療機関への輸送費が約5万円かかる)。これは不妊治療を実施する患者が負担するしくみだ。
しかし研究所では「この金額では精子の検査と保管の費用をまったくまかないきれないだろう」という。
「そのぶんは、ほかのことで収益を得ていこうと考えています。例えば、臍帯(さいたい)血や末梢血幹細胞をバンキングする事業を計画している。精子バンクは事業全体の約10分の1。だから、そこは収益事業じゃなくてもいいわけです」
現在、研究所の資金は獨協医科大学の運営する団体から提供されているが、軌道に乗れば、株式を公開することで事業の透明性をさらに高めていきたいという。
最後に岡田特任教授は長年、生殖医療に関わってきたことを振り返り、こう語った。
「これは自分がずっとやってきたいちばん最後の事業。ようやくここにたどり着いた。ほんとうは、精子取引の闇がここまで深くなる前に、もうちょっと早くやりたかったんですけどね」
(文=AERA dot.編集部・米倉昭仁)