「そこには単にリンクアドレスか張られていて、クリックすると『話はLINEでしましょう』と誘導されるんです。そうなると、もう表に出てこない」
140のWebサイトについて、メールアドレスの掲載、感染症検査の有無、遺伝性疾患への言及などの項目をチェックしていくと、最終的に岡田教授らの基準をクリアしたサイトはたった5つしかなく(2つは個人サイト、ほかは企業サイト)、実に96.4%のサイトが安全でないと判断された。
「とても危険なサイトだらけで、非常に闇が深くなっている。DIというのは本来、医療行為です。ところが、現実には医療者の手を経ていない部分がたくさんある。これはマズいなと5年ほど前から思い始め、今回、精子バンクを設立しました」
■無精子症患者の現実
岡田特任教授は40年ほど前から精子が子どもをつくる力、いわゆる「精子力」の研究を行ってきた。
ところが、人工授精や顕微授精の方法が次第に確立されてくると、研究対象を無精子症に切り替えた。
無精子症には閉塞性と非閉塞性の2種類がある。
「閉塞性の無精子症の場合は、精巣からの精子の通り道を再建してやればいいわけです」
一方、非閉塞性の無精子症は、精巣内に精子をつくっている場所がないか、その場所が非常に少ない。この場合は、精巣内から精子を採取し、顕微授精を行う。
非閉塞性の無精子症の場合、精子が取れる確率は「約3割。よくても4割。つまり、大多数の人が取れない」と岡田特任教授は言う。しかも、精子が取れた場合でも子どもができるのは半数しかないという。
「つまり、閉塞性の無精子症の場合、あまく見積もっても患者全体の2割しか子どもができないのです。8割の患者は、これからの人生をどうしたらいいのか、ということになる。1つ目は子どもなしで2人で仲よく生きていく、2つ目は養子縁組をする。そして3番目の選択肢がDIです」
■ドナーを医療関係者に限定する理由
先に書いたように、現在、国内では12の登録施設でDIを行えるが、その実施数は減少傾向にある。現在、DIで生まれてきた子どもの「出自を知る権利」を求める声と、匿名のドナーに対して情報の開示を求める声の高まりがあり、ドナーの数が減っていることがその背景にある。