無精子症などが原因で男性不妊に悩む患者の一助となることを目指し、日本初の精子バンク「みらい生命研究所」が埼玉県越谷市に設立され、今月から運営が始まる。研究所の代表取締役で、生殖医療を専門とする獨協医科大学の岡田弘特任教授は、SNS上での「精子の取引」の実態を調査し、「とんでもないことが起きている」と警鐘を鳴らす。精子バンク設立に至る経緯を聞いた。
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同研究所は、配偶者以外から提供された精子を凍結保存し、その安全性と機能性を十分に検査したうえで、契約を結んだ医療機関に提供することを目的としている。
設立の背景にあるのが、最近SNS上などで行われている精子取引の闇だ。
「精子の売買とまでは言いませんけれど、この5年くらいの間にSNS上で精子の授受が行われるようになり、それが闇に潜ってきた。これは、えらいこと」と、岡田特任教授は語る。
現在、日本産科婦人科学会は「非配偶者間人工授精(DI)」を国内12登録施設でのみ実施することを認めている。ところが、SNS上でドナーを探し、提供された精子を自分で腟内に注入したり、登録外施設で使用したりするケースが横行しているという。
これは安全性の問題だけでなく、犯罪性を帯びている場合もあり、「非常に危険な行為」と、岡田特任教授は指摘する。
「手渡された精液が感染症の病原体を持っているかもしれない。その精子が提供者のものかどうかもわからない。実際に子どもが生まれてきて、日本人の精子ではないことがわかったりする。そういう、とんでもないことが起こっている」
さらに精子提供者を名乗る男が「今日、排卵日だといいですね」と夫が不妊治療中の女性をSNSで誘い、「セックスに持ち込むケースもある」と、岡田特任教授は言う。
■安全なサイトはたった3.6%
精子バンク設立に先立ち、岡田特任教授らは昨年、精子取引の実体を調査し、論文にまとめた。
まず、インターネットの検索サイトで「精子ドナー」「精子バンク」などのキーワードを打ち込んだところ、140のWebサイトが見つかった。ところが、そのうち約3分の2はホームページがなかったという。これはどういうことなのか。