■舞台の上から心を掴む

――ヒゲや髪形、髪の色にもこだわり、どうすればゴッホのイメージに近づけるか、周囲に相談しながら試行錯誤を続けている。

安田:五感から受ける印象は、すごく大切だと思うからです。その印象のうえに、キャラクターが乗り、言葉の言い回しや身振り手振りが加わっていく。なので、視覚的な印象も大切にしていかなければいけない。

 お芝居をする際は、細かいところを演じ手がコントロールしないと、お客さんの五感には響かないと思うんです。場の制し方もそうです。身体は右側を向いていたとしても手を大きく左側に広げることで、反対側にいらっしゃるお客さんの意識を引き寄せる。そのうえで、身振り手振りで、心を掴む。「見る」「聞く」だけでなく、たとえば嗅覚が鋭い人だったら、その場の空気から何かを感じるかもしれない。五感というものは、常に意識するようにしています。

――自分の感覚を信じ、さらに原田と行定が抱くゴッホの印象を混ぜ合わせながら、役を演じ切りたいという。

安田:原田さんと行定さんが思い描くゴッホ像のなかに、ひとつの大きな“答え”があると思うんです。原田さんのゴッホ像、行定さんのゴッホ像、そこに僕自身が資料を読むなどして得たゴッホの印象を重ね合わせていけたら。この三つが混ざり合い、さらに他のキャストの皆さんが演じる当時のキャラクターたちと絡み合うことで、物語のひとつの“答え”が生まれるのではないかと思っています。

(構成/ライター・古谷ゆう子)

AERA 2021年7月12日号