桜木:1億円の借金をしてホテルローヤルを建てたんです、釧路に。
林:桜木さん、高校生のとき、お客さんのデートクラブの予約も入れてあげてたって本当ですか。
桜木:父がギャンブルをやって帰ってこないので、私は昼間高校に行きながら、夜はホテルローヤルの支店のラブホテルで受付をやってたんです。
林:えっ、信じられない。お父さま、そんな年端もいかない娘にそういうことをさせて、何とも思わなかったんですか。
桜木:それよりは自分のギャンブルのほうに興味があったんですね。正直な人なんで。私が親になってみるとおかしかったことがわかるんですけど。そのときは自分も食べなきゃいけないから、「生活が苦しい」って言われれば手伝いますしね。
林:直木賞をとったあと、桜木さんがいろんなところで「今いちばんの楽しみは、家族でカラオケに行って、みんなでのど自慢することです」って言うから、私、おいおい、そうじゃないだろうと思って、「まだぬくもりが残るベッドシーツをかえるいたいけな少女が桜木さんの原点なんです。家族でカラオケじゃないですよ」と授賞式で言ったことがありますよね。
桜木:はい、覚えてます。
林:でも、そこが桜木さんのしたたかなところで、一見いいところの奥さん風で、家庭生活を楽しげに送っているように見せながら、そういう記憶はちゃんと心の奥に根を張ってるんだなと、そのあとの作品を見て思いましたよ。家族でカラオケに行ったりするのは、世を忍ぶ仮の姿なんだなって。
桜木:いや、それも私なんです。
林:何かで読んだんですけど、桜木さんがどこかの帰りに、恩師にタクシーで送ってもらうことになったときのお話。桜木さんが「ホテルローヤルまで」と運転手さんに言って、到着して先に降りたら、恩師がついてきちゃったという……。
桜木:卒業後の飲み会の帰り、自分の家だから何も考えず「ホテルローヤルへ」と言ったんです。でもその瞬間、あちらは心の準備をしちゃったと思うんです。悪いことしたなぁ。