ジャーナリストの田原総一朗さんは、安倍政権が集団的自衛権の行使を容認した裏側について語る。
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12月7日に朝日新聞出版から『さらば総理 歴代宰相通信簿』という著書が発売される。
私は田中角栄氏以後、すべての首相と会談し、何の遠慮もないホンネの議論を繰り返してきた。それらをまとめた本である。だが、安倍晋三氏について、本書に収めきれなかった重要な事柄があるので、ここで書いておきたい。
それは大問題となった集団的自衛権の行使容認について、である。
小泉純一郎政権時、当時防衛問題の代表的存在であった岡崎久彦氏と会うことになり、岡崎氏が「困ったことになっている」と、私に訴えるように言った。どういうことかと問うと、「冷戦が終わったことで日本の立ち位置が変わったからだ」と答えた。
たしかに、1989年当時、米ソ首脳会談が行われ、米ソ冷戦が終わったことは世界の大きな話題になった。岡崎氏はこう続けた。
「米ソ冷戦とはいわば東西冷戦で、日本は西側の極東部門だった。だから、米国には西側の極東部門を守る責任があったのだが、冷戦が終わり、その責任がなくなってしまった。そこで米国が、岸信介首相が結んだ日米安保条約、つまり日本が他国から攻撃されれば米国は日本を守るが、米国が攻撃されても日本は何もしなくてよい、という片務条約では日米同盟は持続できない、双務条約にせよ、と言ってきたのだ」
岡崎氏は小泉首相に、片務から双務への変革を求めたのだが、小泉氏は頑として応じることなく、その後、安倍首相を何とか口説き落としたわけだ。
それが、集団的自衛権の行使容認であった。
もっとも、自民党と連立していた公明党は平和政党を打ち出していて、集団的自衛権の行使容認など認めるはずがなかった。
そこで防衛問題に詳しい高村正彦氏が公明党の北側一雄氏を長期間かけて口説き続けた。
ただし公明党も、日米同盟が持続しなければ日本の安全保障体制が破綻(はたん)する、とはわかっている。「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより国民の生命・自由及び幸福追求の権利が根底から覆される場合ならば」と表明した。