顔はよく見かける。でも名前まではわからないという人が多いかもしれない。多くの作品に名脇役として出演するおかやまはじめさん。ベテラン俳優が役者を目指したきっかけは意外なものだった。
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大学1年生の頃から、40年近く日記をつけている。どんな映画を観たか、どんな本を読んだか、どんな音楽を聴いて、その日何を食べたか。昔はちょっとしたあらすじや印象などを書くだけだったのが、年を取るにつれて感想や、その時々の自分の考えを書くことが多くなった。
「またこれが面倒くさい話で、映画は映画、音楽は音楽、本は本、食べ物は食べ物で別のノートなんです。今の悩みは、『いつまで俺はこれを続けるんだ?』ということ。やめ時がわからなくなってしまった(笑)。でも、一気にやめると、社会生活が終わった人みたいになっちゃうから、少しずつ減らしていきたいんですけど」
過去の文章を読み返すことはないが、捨てられないノートが段ボールいっぱいに詰まっている。
「元を辿れば、内田百間の『御馳走帖』とか、好きだった日記文学に感化されて始めたことです」
日記の歴史は、ほぼそのまま、おかやまさんの芝居の歴史と重なる。宮城県で育ったはじめ少年が映画好きになったのは、母の影響だった。
「子供の頃、テレビで映画をやっていると、普段は『早く寝なさい』と言う母親が、映画を見ているときだけは言わなかった。父親は公務員でしたが、母親が地元で飲食店をやっていたので、東京の大学に進学しても、親はいつか帰ってきて家を継いでくれるだろうと思っていたと思います」
大学のときは8ミリ映画のサークルに入っていた。そのサークルの先輩が学生劇団上がりで、「明日の舞台で、照明の人手が足りない。手伝ってくれ」と駆り出されたことが、おかやまさんが演劇の沼に引きずり込まれるきっかけになった。
「その劇団の舞台を手伝って、打ち上げのときに、先輩から、『どうだった?』って聞かれたので『つまんない。映画のほうがよっぽど面白い』って答えた。だいたいその舞台は、教育みたいなことをテーマにしていて、笑いも何もない退屈な内容でした。失礼なことを言った俺を怒りもせずに、その先輩は『じゃあはじめさ、今度出てみろよ』って言ったんです」