「食べたものを腸が消化・吸収するには約3時間かかります。夕食は就寝の3時間前、夜9時までを目安に。『リラックスするために寝酒を飲む』という人がいますが、アルコールは交感神経を刺激し、副交感神経を低下させ、眠りの質を悪くします。アルコールも就寝の3時間前で終えましょう」

 食事は、腸内環境も左右する。腸と脳は自律神経を介して密接につながっており、腸内環境が悪くなると、脳内の物質セロトニンの分泌が低下。セロトニンは幸福物質とも言われ、セロトニンの分泌が低下すると精神面での不調を招く。それを防ぐためには食物繊維や発酵食品など、腸内環境を整える食事を積極的に取る。

「食物繊維の中でここ数年注目を集めているのが発酵性食物繊維です。雑穀類、海藻類、豆類、根菜類などに含まれていて、腸内で発酵が促され、腸内細菌がそれをエサにして全身の健康を増進する短鎖脂肪酸という物質を作り出します」

■深呼吸は即効性あり

 短鎖脂肪酸の働きは多岐にわたるが、重要なのは腸内環境を酸性に保ち、腸管からの病原菌の侵入を防ぐこと。交感神経などの神経細胞には酸の受容体があり、短鎖脂肪酸が結合して神経と脳を活性化するとも考えられている。短鎖脂肪酸を増やすには、生きたまま腸に届くビフィズス菌を取り入れて腸内環境を整え、短鎖脂肪酸の原料である雑穀類、海藻類、豆類、根菜類などを毎日の食事で取る。

 もう一つの自律神経を整える鍵、呼吸。深呼吸をすると緊張が解け、体がリラックスする経験をした人は多いだろう。小林さんは、末梢(まっしょう)血管の血流量を科学的に計測できる機械で、呼吸が体にどのような影響を及ぼすか調べたことがある。すると呼吸を止めた瞬間、末梢血管に血液が流れにくくなるとの結果が出た。呼吸が健康と大きく関わっていることが、客観的に数値で証明されたのだ。

「ゆっくりと深呼吸をすると、副交感神経が刺激され血管が開き、末梢まで血流がアップします。筋肉が弛緩(しかん)して体がリラックスし、心が落ち着く。深呼吸は即効性があるのもポイント。意識して深呼吸を行えば、ストレスによる心身の緊張状態を緩和できます」

(ライター・羽根田真智)

AERA 2021年7月19日号より抜粋

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