五輪は、新技術や商品のアピールの場でもあった。最新鋭ロボットが大会運営をサポートする国や都のプロジェクトも、観客がいないのではどうにもならない。席に観客を案内したりするロボットを開発したトヨタ自動車は、「(無観客開催は)当社はどうすることもできませんが、ロボットは五輪に限らずこれからもニーズを探っていきたい」(広報担当者)。

 当初の五輪開催時期に合わせ、都が390億円をかけて整備した「東京国際クルーズターミナル」(江東区)は、コロナの影響で2カ月遅れの昨年9月にオープン。大型客船も寄港できる「新たな首都の玄関口」との触れ込みだったが、これまでの入港回数はたった5回。海外からの船はゼロだ。大会中も入港の予定はないという。

 世界が注視する祭典がいよいよ自国で始まる。スポーツライターの小林信也さんはこう話す。

「いくつもの問題が生じたのは事実ですが、今の世論は冷静さを欠く。五輪そのものの課題と、政府のコロナ対策への批判とは切り離して論じられるべき。今回は家で楽しむしかない状況ですから、テレビ局だって後ろめたさを感じずに堂々と報じていい。競技に打ち込むアスリートやスポーツ本来の醍醐味を味わう機会に五輪がなってほしい」

 せめて、後に「いろいろあったなぁ」と苦笑まじりに振り返れる大会となることを願いたい。(本誌・太田サトル、池田正史)

週刊朝日  2021年7月30日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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