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柔道男子60キロ級で高藤直寿が金メダルを獲得した。今大会日本初の金メダル。同階級での日本選手の金メダルは04年のアテネ五輪の野村忠宏さん以来となる快挙だった。
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薄氷の勝利が続いたが、高藤は想定内だった。初戦の2回戦でフェルストラーテン(ベルギー)に内股で一本勝ちして以降の3試合は、すべて延長線までもつれ込んだ。準々決勝のチフビミアニ戦は相手が抱きつく行為で3枚目の警告を受けて勝利をもぎ取る。準決勝のエルドス・スメトフ(カザフスタン)との一戦は、延長戦11分の死闘の末に勝利を収めた。
決勝戦・楊勇緯(台湾)も延長戦の末に相手が指導3枚を受けて反則負け。粘り強い戦いを神様は見ていた。勝利を告げられると高藤の目に涙があふれた。
初出場した16年のリオデジャネイロ五輪は同階級で銅メダルを獲得。準々決勝で敗れ、敗者復活戦、3位決定戦を勝ち上がったが、表彰台では泣きじゃくった。「井上康生監督に第1号の金メダルをプレゼントしたい」という思いを叶えられなかった悔しさだった。
スポーツ紙の柔道担当記者は、高藤がこのリオ五輪の敗戦で「大きく変化した」と証言する。
「高藤は元々、派手な大技を多用するスタイルだったんです。でも、リオ五輪のこの敗戦で大技は返される危険性を感じたのでしょう。リスクを冒さず勝ちに徹する柔道に変わりました。地味に見える戦いぶりに物足りなさを感じる人もいたかもしれない。でも、すべては東京五輪で金メダルを獲得するため。イケイケだった雰囲気も、落ち着いて大人っぽくなりました。柔道に取り組む意識が高くなったことで内面も変化したように感じます」
リオの悔し涙から5年。東京五輪で歓喜の涙を流した高藤は試合後のインタビューで、「本当に今までみんなに支えてもらっての結果だと思います。本当に古根川(実)コーチ、井上(康生)監督に迷惑を掛けてばっかりだったので結果を出せてよかった。豪快に勝つことができなかったけどこれが僕の柔道です。もっと金メダリストして自分を磨いていきたいです」と声を上ずらせた。