「家には文芸誌が積まれていて、その中には、川上宗薫とかのお色気小説もあった。それをわざと、私たちきょうだいの目に触れるところに置いていたんです。兄も私も興味があったから、読んでみて、そこから大人の世界のことを自然に学んだ(笑)。エロスについても、性教育のことも。人生で学ぶべきことはすべて小説と映画から学べ、という考え方の人でした」
『キネマの神様』が完成して本になったときは、「結局、全部書いちゃったな。小説家なんて身内に持つものじゃないよな」と、娘の前で、ブツブツと文句を言った。でも、後になって麻雀仲間に聞いた話では、雀荘で何冊も自分で買った本を仲間に配りながら、「これ、俺のこと」と嬉しそうに話していたという。(菊地陽子 構成/長沢明)
原田マハ(はらだ・まは)/1962年生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2002年フリーのキュレーター、カルチャーライターに。06年、『カフーを待ちわびて』で作家デビュー。『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞受賞。アートを題材にした小説を多数発表。新書やエッセーも手がける。
>>【後編/アートは“生きる証し” 原田マハが語る山田洋次と父が生んだ奇跡】へ続く
※週刊朝日 2021年8月6日号より抜粋
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