新型コロナウイルスの感染が拡大傾向にある中で開催された東京五輪。国と自治体の不協和音が鳴り響くワクチン問題で、菅政権への不信感がますます高まるにつれ、再びささやかれ始めたのが「安倍待望論」だ。何が安倍晋三氏への期待を高めるのだろうか。発売直後から大反響の『自壊する官邸 「一強」の落とし穴』(朝日新書)からその謎にせまる。

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■「言い負かすこと」がエネルギー

 首相の安倍晋三は、「闘う政治家」を自ら称した。第1次政権発足前の2006年に出版した著書『美しい国へ』の中で「『闘う政治家』とは、ここ一番、国家のため、国民のためとあれば、批判を恐れず行動する政治家のこと」と定義づけている。そんな安倍が好んだのは、やはり追及型の政治家だったようだ。

 年末の政権奪還直後のことだ。新閣僚を呼び込んだ後、行政改革相の稲田朋美、少子化担当相の森雅子を部屋に残す。稲田は安倍に近いとはいえ当選3回の衆院議員、森は07年初当選の参院議員だ。いずれも「閣僚適齢期」とは言えず、2人の就任理由は定かではなかった。

「予算委員会で相手をこう追及していたよね。言い返されたら、こう切り返していたよね」。安倍は本人すら覚えていなかった野党時代の質疑に触れ、閣僚起用の理由を語った。「攻撃ができる人は守りもできるからね」。安倍自身も国会で、野党の質問に答えるよりも、相手を言い負かすことに力を割く場面が目立った。

「事実上、論破をさせていただいたと思っている」

 2019年4月の参院決算委員会では、厚生労働省の毎月勤労統計をめぐる野党議員との論戦で、安倍は「論破」という言葉を使った。広辞苑によると「議論して他人の説を破ること。言い負かすこと」だ。国会の議事録を調べてみると、「論破」を口にした戦後の歴代首相は安倍ただ1人しかいない。

 野党による政権批判に対し、安倍は民主党政権時代と比較し、自らの政策を誇示することが多かった。政権奪還して5年以上経った後でも、「悪夢のような民主党政権」というフレーズを繰り返している。

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