これに対し、市民団体や建築、歴史の研究者は、「端から端まで歩くことでしか体感できないものがあり、3棟保存してこそ意味がある」と全棟保存を訴えた。県のパブリックコメントには2444人から意見が寄せられ、3棟保存を望む声は6割強あった。与党の国会議員も動き出し、県は解体案を保留した。昨年、再度調べたところ、思いのほか強度があることが判明。コストも大幅削減が可能となった。
これを受けて県は今年5月、3棟の耐震化工事の方針を発表し、地元メディアは「保存へ踏みだす形となる」と報じた。ただ県経営企画チーム政策監の三島史雄は「耐震化=保存」ではないと言う。利活用の仕方と重要文化財指定というハードルがあるからだ。
「有識者から重要文化財としての価値があると評価をいただいています。しかし指定されるための必要な資料をそろえられるのか、現状ではわかりません。利活用も何も決まっていません」
(敬称略)(ノンフィクション作家・高瀬毅)
※AERA 2021年8月9日号より抜粋