組織委が昨年12月に公表した予算によると、経費は1兆6440億円にのぼる。経費は国と東京都、組織委の3者で分担し、組織委は7210億円を負う。チケット収入が激減すれば「収支が整わないのは間違いない」(武藤氏)といい、国や都が損失分を補填(ほてん)することになるとみられている。そうなれば、都民や国民の税金でまかなうことになる可能性もある。
■スポンサーも消極姿勢
組織委の収入の大半を占めるスポンサーの動向にも、注目が集まる。
トヨタ自動車やNTTは幹部の開会式の出席を見送った。音楽を担当した小山田圭吾氏が辞任するなど、世論からの逆風が吹き荒れていたことから、欠席を決めたとみられる。
トヨタはテレビCMについても、開催期間中を含めて、今後は五輪関連のものは放映しない考えを示している。CMを放映しないからといって、スポンサー料を支払わないというわけではないが、日本を代表する企業であるトヨタの五輪への消極的な姿勢は、マイナスの経済波及効果を呼ぶ可能性もある。
また、競技会場で最新技術のPRを予定していた企業も、無観客になったことでもくろみが外れた。
NTTはNTTドコモやインテルなどと共同で、競技会場で「5G」を活用し、新たなスポーツ観戦を体験してもらう準備をしていた。
セーリングの会場では、洋上に設置した幅50メートルほどの大型ワイドビジョンで、NTTの映像合成技術を使った競技間近で撮影した映像を楽しむことができる。従来は観客が遠くから双眼鏡を使って観戦するしかなかったセーリングを、より迫力ある形で観戦できることが期待されたが、結果的にはメディアなどの関係者が視聴する際にしか使われていないという。
ほかにも競泳の会場では、5GとAR(拡張現実)を活用して、ARメガネで現実の競技状況を観戦しながら、その視界に重なるように選手紹介映像などが表示されるという新観戦体験を提供する予定だった。これも体験する人がかなり限定されているという。
ゴルフ会場では、5Gを使い、複数の選手の競技風景を同時に切り替えながら視聴する体験を準備していた。
NTTの関係者は「5Gなど新技術のアピールの場だったので、そういう意味では無観客開催は残念。だが実験の実証という位置づけでもあったので、そういう意味ではうまくは進んでいる」と苦しい表情で話した。(ライター・平土令)
※AERA 2021年8月9日号より抜粋

