また、不安によって筋肉は緊張状態が続くため、頭痛や肩こり、不眠といった身体症状が出る人も多い。
●パニック症
「パニック症」の好発年齢は20~30代で、女性のほうがかかりやすい。何の前触れもなく突然、動悸や息苦しさ、発汗、吐き気、めまいなどの激しい身体症状をともなう「パニック発作」が起こる。本人は「このまま死んでしまうのではないか」と思うほどの恐怖を感じるという。
発作は数分でピークに達し、自然におさまるが、繰り返し起こるのが特徴だ。慢性化すると「またあの恐ろしい発作が起こるのでは」と「予期不安」に襲われ、発作を予感させる状況や場所そのものを避けるようになっていく。
さらに進行すると、電車などの閉鎖空間や人混みを恐れる「広場恐怖症」に陥って外出ができなくなり、不登校や引きこもりになるケースもあるという。
不安症はなぜ起こるのか。原因ははっきりとはわかっていないが、脳の脆弱性や不安に対する強い感受性など、もともと持っている「なりやすい体質」に、親との関係やストレスといった「環境的な要因」が加わって、病的な不安に発展すると考えられている。塩入医師はこう話す。
「今はSNSの普及などで人間関係が複雑化するなど、一昔前に比べると『心配の種』が増えています。こうした現代社会ならではのストレスや不安も、不安症発症の一因と言えるかもしれません」
■うつ病を合併することが多い
不安症で最も重要なのは、できるだけ早く発見し、治療を開始することだ。慢性化させてこじらせる前に治療を始めれば、十分に良くなって、ふつうの生活を送れるようになる。
また、不安症はほかの不安症やうつ病を合併することが多い。
「たとえば小学校で社交不安症を発症した人が、20代前半でパニック症、20代後半で全般不安症を次々発症するケースも珍しくありません。さらに不安症の人が生涯にうつ病を合併する割合は、社交不安症では約7割、全般不安症が約6割、パニック症でも約4割と、極めて高いとするデータが示されています。次の病気が発症するのを防ぐためにも、不安症を発症したらできるだけ早い段階で治療を始める必要があります」(塩入医師)
不安症の中でもパニック症は激しい発作が出るのでわかりやすく、大半の人は早めに医療機関を受診する。しかし社交不安症や全般不安症の場合は、病気だと気づかず、「内気だから」「心配症だから」などと性格のせいにしてしまい、受診が遅れがちになる。とくに社交不安症では受診しない人がとても多く、塩入医師らが社交不安症の患者を対象におこなった調査では、発症から受診まで平均約10年もかかっていた。
「実は、不登校や引きこもっている人の中には、不安症のために外に出られなくなっている人が少なくありません。うつ病や統合失調症などほかの精神疾患の可能性もあります。精神疾患は若い世代で発症しやすい病気が多いだけに、早くふつうの生活に戻れるよう、医療につなげることが大切です」(同)
(文・熊谷わこ)
※週刊朝日2021年8月13日号より