こうした患者は舌痛症と同じように中年女性に多いが、不明な部分も多く、明確な治療法はないのが現状だ。

 神奈川歯科大学総合歯科学講座の教授で同大学附属病院・包括的咬合機能回復外来の玉置勝司歯科医師はこの分野の専門家だ。

「かぶせものや詰め物をした後、上下の歯と歯の間に紙をはさみ、『カチカチやってください』と言われたことがあるでしょう。あれは20~30μm(マイクロメートル、1マイクロメートルは1ミリの1000分の1)のごく薄い咬合紙を使ってかみ合わせを診ているのです。歯が当たる部分に色が付き、その接触状態を判断して調整することができます。調整もミクロン単位でおこなうので、通常、大きな問題は起こりません。ところが、一部の咬合違和感症候群の患者さんは治療の後、『違和感がある』『かんだときにずれる』『食事がしづらい』などと訴えることがあります。そして、かみ合わせの微妙な調整を求め、ドクターショッピングを繰り返すことがあるのです」

 こうした人は過去に作った仮歯や上下の歯の模型をいくつも持参して、これまでのかみ合わせ自体の問題、それが全身に影響したという悩みや苦痛を切々と訴えることが多いと言う。

「中には統合失調症やうつ病などの精神疾患による症状の可能性もあるので、その場合は精神科へ紹介します。一方で、そうでない場合は歯科で診ることが大前提。口の中の症状、特にかみ合わせは歯科医師が診てあげないと、患者さんは当然のことなのですが満足しないのです」(玉置勝司歯科医師)

 このような状態に、漢方薬は欠かせない治療手段だ。

 同外来で2018年~19年に咬合違和感症候群と診断した患者のうち、漢方治療の了解を得られた女性10例を分析した。いずれも漢方医学的診断(証、しょう)をおこない、体質に合わせて薬を決定している。その効果をVASという痛みなどの目に見えない症状を数値化するスケールでチェック。その結果、受診後3回目くらいでVAS値が明らかに減少し、症状が軽減したと判断できるケースが半数(50%)に認められた。

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