こうしたメーカーの思いをよそに、間違った情報が流れ、否定的な意見とともに広まることとなった。記事を配信していたメディアに経緯を問い合わせたが、「取材経緯については従前よりお答えしておらず、情報源についてもお答えいたしかねます」との回答だった。
浮世絵の専門家である大阪市立大学文学研究科の菅原真弓教授は、近年、浮世絵が日本文化を象徴するアイコンのようになってきた流れを説明する。
「浮世絵はこれまでも日本文化を象徴するアイコンとして使われてきましたが、特にインバウンド需要が増えた時期から、観光客が集まる場面で使われる事例が目立ちます。たとえば、浮世絵とスヌーピーがコラボしたデザインのグッズや、西武鉄道や大阪メトロのマナー啓発として、浮世絵が用いられてきました」
こうした流れも手伝って、五輪組織委が 外国人選手向けに浮世絵コンドームを採用するという間違った情報に現実味を与えてしまったのかもしれない。そこに五輪の開催への批判的な意見と合わさり、広まってしまった、と考えるのが妥当なところか。
浮世絵の専門家としては、そもそも浮世絵コンドームについてどう思っているのだろうか。由来を踏まえ、こんな複雑な心境を吐露した。
「風景だけでなく、人が描かれた役者絵のデザインも使われているのは気になってしまいますね。役者絵は、本来の機能からするとブロマイドのようなもの。たとえれば、アイドルの写真がコンドームに貼られている感じでしょうか。目くじら立てるほどではないですが……」(菅原教授)
そのインパクトゆえ、意図せぬかたちで話題を呼んでしまった浮世絵コンドーム。メーカーに受け止めを詳しく聞きたいところだったが、「ご時世的にも静観させていただければと思います」。
コロナ禍で開催された異例の五輪。競技以外の側面がさまざまなかたちでクローズアップされてきたが、あと二日で閉幕する。(AERA dot.編集部/飯塚大和)