「膠着状態を破るには、ここで勝負しかない」と考えた山下智茂監督は、次打者・荒山哲也のカウント1-1からの3球目に盗塁のサインを出した。
大きな体に似合わず(?)、100メートルを11秒台で走る松井は、見事二盗に成功。一か八かの作戦が決まった山下監督は、間髪を入れず、「次の球がストライクなら、ヒットエンドラン」とたたみかける。
投球がボールになったことから、松井の単独スチールとなり、三塁もセーフ。沼津市立バッテリーは、まさか松井が続けざまに走ってくるとは夢にも思わず、完全に意表をつかれた。人間、見かけだけで判断してはいけないという良い見本である。
そして、荒山も3-1と打者有利のカウントから右中間を破り、松井が決勝のホームを踏んだ。
星稜は9回にも1点を加え、最後は4対3で逃げ切り。山下監督は「あそこで(松井の足で)重圧をかけたのが、9回の1点につながった」と“打って走れる4番”の活躍に目を細めていた。
松井は3回戦の竜ケ崎一戦、2対1の8回に甲子園初本塁打となる右越え2ランを放ち、“ゴジラ伝説”の幕を開けている。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。