むしろ米メディアが疑問に感じていたことは、IOCに対するものがほとんどだ。

 同紙は東京オリンピックの開催を称賛するも、「(今大会には)傷もあり、その大部分は自傷であった」という。この自傷とは日本が開催することによって負った損失のことだ。キングス・カレッジ・ロンドンの元教授である渋谷健司氏の言葉を引用し、「今大会は日本に傷跡を残した。分裂と不信、そして、健康的及び経済的債務を引き起こした」と紹介している。

 異例となった無観客開催の結果、IOCは無事に大会が行われたことで放送権の収入を得たが、開催都市が得た収益はほぼ無い。チケット収入は微々たるものとなり、期待されていた海外からのインバウンドもなかった。本当に日本にメリットはあったのだろうかと疑問を感じている。さらに「日本の納税者はこれから数十億ドルを支払うことになる」といい、またオリンピック開催直後から増え続けている新型コロナウイルスの感染者との戦いという大きな代償をこれから支払うことになると指摘している。

 そんな中、IOCだけが利益を得るという状況に対して疑問を感じているメディアは少なくない。

『ワシントン・ポスト』は別の記事で、今回のオリンピックが強行的に開催された状況を「IOCは大会をフォークの上にのせ、日本という嫌がる幼児に無理やり給餌した」と例え、「開催都市が非常事態に耐えている間に開催された東京オリンピックは必要なかった」とIOCを強く非難した。

 さらに『ニューヨーク・タイムズ』は大会中のIOCの対応の悪さを痛烈に批判している。

 例えば、ベラルーシの陸上選手クリスティナ・ティマノフスカヤの亡命事件の発端となったコーチ2名の大会資格を剥奪するまでに5日もかかったことや、収益を最大化するため日本で最も暑い時期での開催を推し進めたこと、なによりもコロナ禍で日本国民が反対する中、大会を開催したことについて「IOCは非民主的であることを示した」と強く非難する。

 さらに、半年後に控える北京での冬季オリンピックを前に、バッハ会長らIOCの当局者が中国国内での人種問題に一切コメントしないことを取り上げ、「大国、アメリカが数カ月後の北京大会に対してどのように対応するか決定する必要がある」と、今後IOCとどのように付き合うべきかというをメッセージを米社会に向けて発信した。

 そして、米メディアはオリンピック自体の影響力低下も指摘する。特に視聴率について、「2020年のオリンピックは史上最低」(ニューヨーク・ポスト)という報道もある。同記事によれば、今大会の視聴者数は16年リオデジャネイロ大会の2670万人から51%も減少したという。結果、『NBCユニバーサル』も大きな損失を受けたとも言われている。このように米国内での視聴率の悪さだけでなく、前述の中国の問題に対してIOCが何もメッセージを発しない場合、アメリカの放送局も世論に押され何かしらの行動を起こすかもしれない。
 
 日本国内のみならず世界にも様々な課題を残した今回の東京オリンピック。今大会は各国が今後IOCやオリンピックとどう付き合うのかを考えさせられる大会だったのかもしれない。(在米ジャーナリスト・澤良憲/YOSHINORI SAWA)

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