イギリスの男子シンクロ高飛び込みのトーマス・デーリー選手は、金メダルを取った後の記者会見で「ゲイでありオリンピックチャンピオンでもあると言えることが、信じられないほど誇らしい」と語りました。彼がなぜ「ゲイであり」と述べたのかといえば、わざわざ言わなければ差別の存在に気づかない人たちもまだまだいるから。残念なことにこの発言は日本のメディアではあまり取り上げられなかったようですが、オリンピックという舞台を、世界共通の課題を認識したり、話し合ったりする機会につなげていくべきです。

 また、今大会には五輪史上初めて、公表したトランスジェンダー選手が出場しました。いち当事者として僕自身の現役時代を振り返れば、自分らしくありたいと思うなら競技が続けられなかったですし、競技者であろうと思えば自分らしくいられなかった。そこに両立の道が開かれたというのは本当に喜ばしいことです。

 今大会はまさにスタート地点。ここから真に多様性のある社会の実現に向けて、私たち一人ひとりが考え、行動に移していくことが大事だと思います。

(構成/編集部・藤井直樹)

AERA 2021年8月16日-8月23日合併号