杉山文野(すぎやま・ふみの)/元フェンシング女子日本代表。NPO法人「東京レインボープライド」共同代表理事。JOC理事
杉山文野(すぎやま・ふみの)/元フェンシング女子日本代表。NPO法人「東京レインボープライド」共同代表理事。JOC理事

 東京五輪が掲げた多様性だが、結果的に尊重されていないことを露呈することになった。それでも、日本オリンピック委員会(JOC)理事の杉山文野さんは、今大会の持つ意義は大きいという。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号で、多様性のこれからを語った。

【写真】「軽すぎる五輪」が始まったのはこの瞬間から

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 この東京大会では「多様性と調和」が基本コンセプトに掲げられていますが、とても大きな意味を持つものだったと改めて感じています。というのも、皮肉にもこのコンセプトのおかげで「日本では多様性が尊重されていない」という現実があぶり出されたからです。

 女性蔑視、容姿侮辱、いじめなど、僕たちの社会に巣くう差別や偏見は、内側にいては見えづらいもの。忖度(そんたく)、あるいは空気を読むという言葉があるように、弱い人たちの立場を守るよりも、強い人たちの権利を守ることにみんなが犠牲を強いられてきたからです。それが今回、ホスト国として国際的なイベントを開催したことで、いかに日本社会が国際基準からズレているかが白日の下に晒(さら)されました。

 その一方、世界中から集まった選手たちに目を移せば、明るい兆しも見えました。オンラインメディア「アウトスポーツ」によると、性的マイノリティ(LGBTQ等)であることを明かして参加した選手の数が、2012年のロンドン大会は23人、16年のリオ大会は56人、そして今大会では少なくとも182人と急速に増えたのです。

 この背景には、欧米を中心に社会の理解が進み、カミングアウトしやすくなっていることがあります。また、14年にオリンピック憲章に「性的指向による差別の禁止」が明示されたこと、15年にトランスジェンダー選手の参加条件が変わったことなども良い影響を与えています。

 ただし、カミングアウトした選手を国別に見てみると、LGBTQへの差別を禁止する法律が整備されている国に大きく偏っています。アジアの選手はほとんどいませんし、日本人にいたってはゼロです。

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