妻を亡くした家福(西島秀俊)は寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)に出会う。「ドライブ・マイ・カー」は8月20日から全国で公開予定 (c)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
妻を亡くした家福(西島秀俊)は寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)に出会う。「ドライブ・マイ・カー」は8月20日から全国で公開予定 (c)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
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濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)/1978年、神奈川県生まれ。代表作に「ハッピーアワー」(2015年)、「寝ても覚めても」(18年)。黒沢清監督「スパイの妻〈劇場版〉」(20年)の脚本も担当(撮影/小黒冴夏)
濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)/1978年、神奈川県生まれ。代表作に「ハッピーアワー」(2015年)、「寝ても覚めても」(18年)。黒沢清監督「スパイの妻〈劇場版〉」(20年)の脚本も担当(撮影/小黒冴夏)

 濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。これは日本映画初の快挙だ。世界が最も注目する監督の、役者の新たな一面を引き出す演出術とは。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号に掲載された記事を紹介する。

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「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹の短編が原作だ。主人公は、ある日突然妻を失った俳優で舞台演出家の家福(かふく)(西島秀俊)。孤独と喪失を抱える彼は、演劇祭で訪れた広島で寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)に出会う。2013年に原作を読み「映像化するならこの作品」と思ったと、監督の濱口竜介(42)。

「言葉がぽつぽつと出てくる感じ、というのでしょうか。もともと自分のことを深く話さない2人が、車中という閉鎖空間で少しずつ話し始める。その感じが自分の生活上の感覚とも重なったというか、すごく惹かれるところがあったのだと思います」

 村上春樹の短編集『女のいない男たち』から、別の2編の要素を加えて物語を練り上げた。

■自由に演技が発展する

 家福が演劇祭で演出する「多言語演劇」というオリジナル要素も興味深い。それぞれのキャストが母国語で演じ、日本語、北京語、韓国語、手話も含めた九つの言語が入り交じる。

「現場の通訳さんは大変だったと思いますが、『多言語演劇』は実は非常にシンプルに『演じる』ことができる方法だと感じています。演劇では次のセリフが決まっているので、そのセリフがどの音にあたるかが理解できればやりとりが成り立つ。しかも相手の言葉がダイレクトに理解できないことで、演技の手がかりが相手の身体や声、身体反応にフォーカスされていく。それによって、演技ではなく『その場でより相互作用が起きているように見える』のでは、と」

 濱口は役者の新たな一面を引き出す名手だ。「寝ても覚めても」の東出昌大しかり。本作では、演劇祭に参加する若手俳優・高槻を演じる岡田将生にハッとさせられる。演出の秘密が、劇中で家福が何度も繰り返す「本読み」のシーンに垣間見える。

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