医療も教育も、この不具合の最大の原因は官僚の無謬(むびゅう)性神話である。政府は一度も間違ったことがないのだが、それにもかかわらず政策がうまくゆかないのは(感染が終息しないのも、学力が低下するのも)すべては「現場のサボタージュ」のせいである。だから、さらにシステムを上意下達的に編成して、現場の自由裁量権を奪い、黙って働かせればいいという話を30年ほど繰り返してきた結果こんな事態になった。
政府が時々政策を間違えるくらいのことを私は責めない。間違えたら、すぐにそれを認めて正せばいいだけのことだ。無謬性神話にしがみついて、誤った指示をそのままにして、さらに「新しいタスク」を上乗せするから現場は疲弊し切るのである。もう勘弁して欲しい。
内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数
※AERA 2021年9月6日号