

かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな循環の中心にいる人々に迫る短期集中連載。第1シリーズの第3回は、企業の受付から起業家に転身した、ベンチャー企業RECEPTIONIST(レセプショニスト)のCEO・橋本真理子(39)だ。AERA 2021年9月6日号の記事の3回目。
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橋本は受付時代に培った人脈をフル活用し、ベンチャー投資家(VC)に会えそうなセミナーやパーティー、ゴルフコンペに足を運んだ。その一つに、あるIT企業のオーナー社長の誕生パーティーがあった。そこには社長と仲の良いあの男が来るはずだった。
エンジェル投資家の島田亨。スタートアップ界隈の若者たちの間では「起業の神様」と呼ばれている。これまでに約180社のスタートアップに投資し、6社が株式上場を果たした。上場にたどり着く確率は「センミツ(1千社に3社)」と言われる中で信じられない打率である。70社は大手企業への株式売却などで利益を出している。
島田もかつては起業家だった。リクルート子会社のマンションディベロッパー、リクルートコスモスで知り合った宇野康秀とともに人材派遣のインテリジェンスを創業。その後、島田は楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史に三顧の礼で迎えられ、東北楽天ゴールデンイーグルスの球団社長を任される。赤字が当然だったパ・リーグで球団経営を軌道に乗せ、楽天本体の副社長も務める傍ら、数多くのスタートアップに投資してきた。
■「壁打ち」で計画磨く
誕生パーティーで島田を見つけた橋本は、真っすぐに駆け寄った。バッグに忍ばせていた企画書を取り出しながら言った。
「少しだけお話を聞いてもらえませんか」
島田の元には「我こそは」という若者たちが、つてを頼ってアプローチしてくる。大抵はプロダクトのプロトタイプやソフトウェアのデモを見せられるが、紙一枚は珍しい。島田にはかえってそれが新鮮だった。
「なるほど。受付をクラウド化して、そこからマーケティングデータを取り出すのか」
視点はいい。島田はすかさず厳しい質問をした。
「受付は会社の顔。業務が効率化し、データが取れるからと言って、大企業の何割に受付を無人にする勇気があると思いますか」
そうか。自分たちがこれからサービスを売り込む日本の大企業は急激な変化を好まない。橋本は痛いところを突かれ、しばらく黙ってしまった。それでも勇気を振り絞ってこう言った。