林:私は、まったくそうは思わないですよ。でも、若いころは編集者の人といる時間も長かったかな。

朝井:あ~! 編集者さんとの関係性は確かに変化を感じます。仲よくしているどころか、そもそもそれほど会ってないような……?

林:そうなの? 次の小説の打ち合わせは、どうやっているんですか。

朝井:それでいうと、林さんの『小説8050』の最後の謝辞で、2年前から勉強会を開いていたというのを読んでちょっと驚きました。私は、書く前の内容を細かく編集さんに共有できないんです。打ち合わせという打ち合わせをせずに、書き始めるというか。

林:ああ、なるほど。

朝井:「とりあえず50枚ぐらい書きます」みたいに、書いてから読んでもらう方法を続けてきたんですが、特に最近は、そのやり方に限界が来てるんじゃないか、誰かともっと話し合いながら物語をつくってみたいなぁと思うんです。林さんはうまく編集さんを頼りにして、周りにチームができているように見えて羨ましいです。私はそういう関係性が築けていなくて。

林:そうですか。でも、各出版社、朝井さんに書いてもらいたい編集の人はいっぱいいるわけでしょう。そういう人がアイデアを持ってこないんですか。『8050』の場合は、編集者に「引きこもりについて書きましょう」って言われて、私、「詳しくないし、気が進まないな」と思っていたんだけど、資料をたくさんもらっているうちに、やらざるを得ない気持ちになってきて。私が朝井さんの担当編集者だったら、朝井さんに「ドロドロの恋愛小説を書いてほしい」とか、「明治の青年を書いてもらいたい」とかアイデアを持っていくと思うけどな。

朝井:林さんは、今までまったく書こうと思っていなかったことでも、アイデアをもらえば、「あ、書けるかも」って思えますか。

林:無理なものは無理だし、「ちょっと違うな」って思うことはあるけど、資料をたくさん持ってきて、時間をかけて説得されると、編集者のパワーに負けることもありますね。

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