夢を読み解く上では「トリガー」と呼ばれるきっかけへの注目が必要だと、松田教授は話す。
「トリガーとなりやすいのは1週間くらい前までの経験で、連想をもとに関連素材が引っ張り出され、一つのストーリーになる。それがストレスフルなイベントや、自分の中で気にかかっていることだと、なおさら悪夢になりやすい。殺される夢は一般的ですが、アユミさんの場合、校了まで一生懸命仕事に打ち込んでいたからこそ考えなくて済んでいた課題との関係が考えられます。しかし逃げ切って大丈夫と励ますという結末なので、課題にも対応できそうです」
アユミさんは、悪夢を見る数日前までは「締め切りに間に合わなければ自分は首になるのでは」というプレッシャーを常に感じていた。そういった心境が、夢に影響した可能性も考えられる。
ところで、いわゆる「夢占い」のように、夢を潜在意識や欲求の象徴と捉える見方は根強い。アユミさんの夢にも同種の解釈を当てはめたくなるが、「その見方はもう古い」と松田教授は指摘する。
「夢とは連想のつなぎ合わせのようなもの。悪夢ならば自分の状態を知るのに役立ちますが、ほとんどのものはそうではなく、出てくるものすべてに意味があるとも限りません。例えば『PTSD』は、すでに一般的に使われる言葉。自分が知っている病気の単語に『PTSD』が含まれていて、何かのはずみに刺激されて出てきただけという可能性もあります」
『悪夢障害』(幻冬舎新書)などの著書を持ち、現在も精神科医として学生などを対象とした臨床活動を行う早稲田大学スポーツ科学部の西多昌規准教授も、「試験など、プレッシャーを感じる出来事がある前後に悪夢を見る人は多くいます。夢を見て一晩ぐらいうなされたからといって、さほど気にする必要はありません」と断った上で、「ただし、疾患によっては悪夢が重要な兆候となっている場合もあります」と続ける。
どのような場合に疾患の可能性を疑うべきか。