日本の学習指導要領に当たる「基準」を制定する州政府で「テロに関するコンテンツで9.11に触れていない」州は16州あり、50州のうち3分の1に当たる。つまり、テロについて教える際、9.11に触れなくてもいいという解釈だ。「基準」などに9.11の授業を含めている州は26州で、全体の約半分だ(ウィスコンシン大学ジェレミー・ストダード教授らによる論文「9.11と米中等教育におけるカリキュラム、9.11から15周年」による)。
「今週9.11の授業をしようとしたけれど、あまりにも多くの『基準』の授業があって、来週になりそう。ベトナム戦争以降の1970年代にまで学期末にたどり着けるのかも怪しいのに、9.11を入れるのはすごく大変」
こう打ち明けるのは、中西部イリノイ州シカゴの高校教師アニー・ウィリアムズさんだ。
■フェイク区別する習慣
彼女は9.11の時は高校生だったが、高校のテレビでリアルタイムで世界貿易センターの崩壊を目撃した。教師になってから、なんとかして9.11について教えたいと思っていた。
ウィリアムズさんが出会ったのは、ニューヨーク市立大学(CUNY)のエリーズ・ランガン准教授による「9.11教育トレーニングプログラム」。ランガン准教授は2020年から連邦議会図書館などから助成金を得て、9.11についての授業に取り組む教師に支援金を提供。支援金の総額は年間4万ドルで、全米10人の教師を選び、支援している。
「ショック以外の何ものでもなかった」
ニューヨーク市で勤務していたランガン准教授は9.11の当日、世界貿易センターの崩壊を目の当たりにした。同僚とともに、9.11について教えようとしている教師を支援し、教材を調達する資金を得ようと始めたのが同プログラムだ。
「歴史を教えることは、生徒が民主主義を理解し、政治に参加することを教える最大の機会だと思う」
と同准教授。さらに、9.11が当時のブッシュ政権によって仕組まれたなどとする陰謀論をめぐり、事実とフェイクニュースを区別する習慣を教える機会でもあると強調する。9.11に始まり、特に17年のトランプ政権の誕生で陰謀論がオンライン上に溢(あふ)れるようになったためだ。
■米社会の形成を知る
さらに、広大な国土を持つ米国では、少なくとも教師自身が世界貿易センターが崩壊する事件を経験したニューヨーク市を訪れ、国立9月11日記念館・博物館などを視察するなどの体験を持つことも重要だとする。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))
※AERA 2021年9月20日号より抜粋