膨大なネガフィルムをアーカイブ化したい──と、貴田さんは考えたが、個人ではスキャンするだけでも大変だ。

「たまたま別の本のために貸し出した絵看板の写真に関心を持った、映画文化の研究家・コレクターの南明弘・晃代ご夫妻が、堺市立東文化会館の岸田隆夫館長と一緒に連絡をくださった。そこからチームとして本格的にアーカイブ化をめざすことにしました。幸い、大阪市の助成を得られることになり、絵看板の仕事が保存に値する文化だと認めてもらえたのは嬉しかったです」

 街の風景がすぐに変わってしまう日本では、絵看板とともに写真に残る大阪・千日前の町並みや人びとの様子も得難い文化遺産だ。

「国立映画アーカイブの主任研究員・岡田秀則さんは『貴重なものだから絵師さんが元気なうちに話を聞いて、記録に残すべきだ』という助言とともに、掲載写真のセレクトや巻頭の年表、本の監修もしてくださいました」

 岡田さんは絵看板を「街ゆく人たちの視線を集めるためにつぎ込まれた、壮大かつ繊細な技芸の集積」と呼ぶ。

「元絵師の方々にお会いできたのは、正直『間に合った!』という気持ちです。戦後の映画史、そして古き良き大阪、上方文化のありかたも感じていただけたらと思います」

(ライター・矢内裕子)


AERA 2021年9月20日号

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