今回の映画では、莉子のついた小さな嘘から、物語は始まる。それは、守りたいものを守るための小さな嘘。喬太郎さんに、「嘘をつくことはありますか?」と聞くと、冗談とも本気ともつかぬ表情で、「この映画を守るために今も小さな嘘をついてますけどね」と言って笑った。

「内心は、『冗談じゃねーよ、こんな映画!』って思ってるかもしれないじゃないですか(笑)。取り繕ったり、真実じゃないことを作り出すのはよくないことかもしれないけど、そこに愛があって、人を守るためなら、嘘は大事だと僕は思います。“嘘から出たまこと”という言葉もありますし、誰かを守るために嘘をつくことは、人を愛することと同じで、何かを大事にすることだから。だいたい、噺家なんて高座の上で嘘ばっかりついているんですよ。そこで生まれたかりそめの笑いによって、『元気になりました』と言ってくださる方もいらっしゃいます。元気になったからと言って、おのおのが抱えている問題は解決しないこともわかっている。それでも、かりそめの笑い、かりそめの嘘、かりそめの時間によって、『元気になった』と思ってくれる人がいるなら、僕はこれからも嘘をつき続けたいです」

(菊地陽子、構成/長沢明)

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)/1963年生まれ。東京都出身。89年、柳家さん喬に入門。98年、NHK新人演芸大賞落語部門大賞を受賞し、2000年に真打ち昇進。以降も、3年連続で国立演芸場花形演芸会大賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞[大衆芸能部門]など、数々の賞に輝く。20年、落語協会常任理事に就任。タナダユキが演出を手がけた「昭和元禄落語心中」(18年/NHK)では、落語監修を担当し、出演も。

週刊朝日  2021年9月24日号より抜粋

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