『因果推論の科学』(文藝春秋刊)
『因果推論の科学』(文藝春秋刊)

 ジューディア・パールのこの本は、AIが「シンギュラリティ」に到達するには、三段階が必要であり、現在存在するAIは、第一段階のものでそれは「相関関係がわかる」コンピュータということなのだ、という。汎用性のあるAIが誕生するには、人間と同様に「因果関係がわかる」AIが登場しなくてはならないという。

 そしてこの本が優れているのは、科学史や数学史をたどりながら、実は人間の科学や数学は、相関関係(統計)、確率について発展してきたのであり、因果関係を数式に置き換えるというようなことは、やってこなかったということを説明していることだ。

 数学者の新井紀子は、コンピュータに東大入試を突破させるプロジェクトを指揮してその顛末を『AIvs.教科書が読めない子どもたち』(2018年 東洋経済新報社)に記しているが、この本を読むと現在のAIの限界がよくわかる。

 要はすべて人間が「教師プログラム」をつくらなければならないのだ。たとえば、国語の文意把握の選択問題。これを正解させるにはどうしたらいいかをまず人間が考える。現在のAIは文章を理解することはできない。だから、選択肢が5択ある問題だと、下線をひかれている文の中にある単語と、選択肢の中にある単語が一番重なっているものが正解だという「教師プログラム」をつくって、コンピュータにその「相関関係」を計算させるのだ。しかし、これでは正解率は5割少し超えるくらいの実績しかでない。

 数学は論理、確率、統計という表現手段を獲得したが、それ以外のことはできない。だから、それ以外を要求される「汎用AI」は論理的には無理、シンギュラリティなどというものはこない、と新井は、同書で明快に主張していて、目からうろこがおちる思いがしたが、今度のジューディア・パールの本は、「相関関係」に終わっている現在のAIが「汎用AI」となるため、どうしたら「因果関係」がわかるようになるのかを議論していて面白い。

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